Diabetes Front
DITN No.509 掲載
膵島細胞移植とこれからの膵臓再生医療
―iPS細胞を活用した膵島細胞移植療法の最前線―
ゲスト

矢部 大介先生
京都大学 大学院医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学 教授
ホスト

山内 敏正先生
東京大学 大学院医学系研究科 代謝・栄養病態学 教授
山内●糖尿病医療の進歩で期待される分野に、膵臓β細胞を増やす治療の開発があります。現在、ヒトのES細胞やiPS細胞から作成した膵島細胞や、遺伝子改変ブタで作成した膵臓を移植するβ細胞補充療法が開発されています。今回はiPS 細胞を活用した医師主導治験を進めておられる矢部大介先生をゲストにお招きして、β細胞再生研究についてさまざまな角度からお話しいただきます。
膵島移植の現在と長期成績から見えてくる課題
山内●近年注目されている分野に、1型糖尿病に対する移植・再生医療があります。2020年に膵島移植は保険適用となりましたが、ドナー不足などの課題があります。近年、幹細胞由来膵島細胞を用いた1型糖尿病をもつ人への移植治療の試験が進んでいます。
矢部●1型糖尿病に対するβ細胞補充療法として膵島移植は、膵臓移植に比して侵襲性が低く、局所麻酔で行うことができ、繰り返し移植可能なことが大きな特徴です。膵島移植により血糖変動が安定化し、一時的なインスリン離脱を得られる症例もあります1)。
わが国では膵島同種移植の多施設共同臨床試験が実施され、その結果を基に2020年に「同種死体膵島移植術」が保険適用となりました。試験では、HbA1cがベースライン7.3%から移植後6.0%前後に改善し、1年以上の経過でもこの値が維持されました2)。インスリン必要量は半減し、重症低血糖を繰り返していた全例で重症低血糖が消失しました。また、SF-36(MOS 36-Item Short-Form Health Survey)などを用いたPatient Reported Outcomesでは、膵島移植を受けた人において精神的負担が軽減される方向性が確認されています。
山内●膵島移植の長期成績についてはいかがでしょうか。複数回の移植が必要なケースもありますか。
矢部●京都大学病院における膵島移植後10年間の観察コホート研究の結果を見てみると、膵島移植の長期的課題が見えてきます。膵島移植を受けた7例と既存のインスリン療法(MDIまたはCSII)を継続した26例を比較したところ、移植後1~2年ではHbA1cが良好に維持されましたが、長期的にはMDI・CSII群とほぼ同程度の水準に戻る傾向が認められます3)。この成績は、移植膵島の機能が5年、10年という長期にわたっては十分に維持されにくいことを示唆しています。また、免疫抑制剤の使用により感染症や悪性腫瘍のリスクがMDIやCSIIと比較して高くなることも示されており、膵島移植の重要な課題です3)。さらに移植医療に共通した課題として、膵島移植においても休日返上で脳死者から膵臓を摘出して膵島を単離する場合もあり、人員確保も現実的な課題です。
海外における幹細胞由来膵島細胞移植の臨床成績
山内●海外での幹細胞由来膵島細胞移植の取り組みについて教えてください。
矢部●多能性幹細胞由来の膵島細胞移植に関しては、現在、複数の治験が進行しています(表)4)。ViaCyte社の取り組みは、発生過程を模倣した段階的分化誘導法により、ES細胞から膵内胚葉由来の前駆細胞まで分化させ、これをカプセル型デバイスに封入して移植する手法です5, 6)。このカプセル型デバイスは、生体側からの血管侵入を許容する設計であるため、移植時には免疫抑制剤の併用が必要となります。移植1年後にデバイスを摘出して免疫染色を行うと、インスリン陽性細胞およびグルカゴン陽性細胞が確認され、膵島様組織の形成が認められました。さらに、食事負荷試験においてC-ペプチドの血中濃度が上昇することが確認され、移植細胞が生理的刺激に応答してインスリンを分泌していることが示唆されました。しかし、そのC-ペプチド濃度は糖尿病のない人の1/100にとどまり、血糖改善効果を得るには十分ではありません。
一方、最近報告されたVertex社の成果は極めて注目すべきものです。ES細胞から分化誘導した膵島様細胞を経門脈的に移植する手法を採用しており、これまでに得られた臨床成績は良好です7)。CGMによるTIRは、多くの症例で著明な改善が認められ、全例で70%以上のTIRが得られました。また、HbA1cも全例で7.0%未満に達し、12例中10例でインスリン離脱が確認されました。なお、真菌性髄膜炎および重症認知症が原因と考えられる2例の死亡例も報告されておりますが、すでに第3相臨床試験が進行中です。
山内●自家iPS細胞を用いた取り組みについてはいかがでしょうか。個別化医療という観点で興味深い試みだと思います。
矢部●中国・天津第一中央病院から報告された症例は、世界的にも大きな注目を集めました。2024年に1例報告としてCell誌に発表され、事前にNature誌から私たちにもコメントを求められるほど話題となりました8, 9)。症例は25歳、罹病期間11年の1型糖尿病をもつ人で、すでに肝移植後で免疫抑制療法を受けていたことが特徴です。本人の脂肪組織から間葉系幹細胞を採取し、低分子化合物を用いてiPS細胞へリプログラミングした後、膵島細胞へ分化誘導し、腹直筋前鞘下に細胞を移植しました。その結果、空腹時血糖値は速やかに改善し、移植後75日でインスリン離脱を認めました。さらに、HbA1cも正常化し、CGMによるTIRも良好な値を示しています。
本報告は単一症例かつ観察期間が1年と短期ではあるものの、安全性と有効性が確認された点で、極めて有望な成果といえます。一方で、移植を予定する人ごとにiPS細胞の作成・増殖・分化誘導・移植を行う必要があるため、時間的、経済的負担が懸念されます。特に、品質管理を症例ごとに実施しなければならず、社会実装に向けては課題が大きいです。

京都大学でのiPS細胞由来膵島細胞移植の臨床展開
山内●京都大学病院での研究について教えてください。中国の症例とは異なるアプローチと伺っています。
矢部●当院ではiPS細胞由来膵島細胞シート(OZTx-410)の医師主導治験を2025年1月より開始し、一定の基準を満たす1型糖尿病への移植を実施しています。OZTx-410に用いられるiPICs(iPS細胞由来膵島細胞)は、武田薬品工業と京都大学が共同で推進したT-CiRA(Takeda–CiRA Joint Program for iPS Cell Applications)を通して樹立された膵内分泌細胞であり、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の再生医療用iPS細胞ストックから派生した細胞です。製品の開発はオリヅルセラピューティクス株式会社によって行われています。
OZTx-410は薄いシート状の製品で、iPICsが均一に分布しており、移植時の細胞生着性と局所的な血管新生を促進するよう設計されています。分化誘導の結果、内分泌細胞が全体の98%以上、インスリンおよびNKX6.1陽性のβ細胞が半数以上を占める細胞集団が得られています。テラトーマ形成リスクを回避するため、未分化iPS細胞は検出限界以下、目的外増殖細胞も1%未満に抑制されています。最大の特徴は、大量培養が可能で均一かつ高品質な点に加え、分化誘導後の細胞を凍結保存できるため、安定した供給体制を構築できることです。移植対象が決定した際には、細胞を融解後、再凝集化・シート化して出荷することで、およそ2週間程度で医療機関に届けることが可能です。この迅速な供給と、分化段階までの品質管理がすでに完了していることによる大幅なコスト削減は、社会実装における大きな利点といえます(図)。
山内●非臨床試験の結果はどうだったのでしょうか。
矢部●非臨床試験では、培養したiPICsを生体内分解性ゲルシートに組み込み、シート状にして1型糖尿病モデル免疫不全マウスに移植した結果、血糖値は速やかに低下し、正常血糖が維持されることを確認しています。移植24週後に移植した細胞を摘出して解析したところ、インスリン陽性およびグルカゴン陽性の膵島構造が保持されていることが確認されています。さらに、生理的なインスリン分泌能についても詳細に検証されています。経口グルコース負荷試験では、血糖上昇に応答してC-ペプチドが分泌され、その後の血糖低下に伴い分泌が抑制されます。また、インスリン感受性試験でも、血糖低下時にiPICs由来のインスリン分泌が抑制されることが示され、生理的なフィードバック制御が機能していることも確認できています。iPICs移植後1年間の長期観察では、C-ペプチド濃度は徐々に上昇して定常状態に達し、血糖値も良好に維持されました。1年後に移植した細胞を摘出した際にも、腫瘍形成は認められませんでした。
さらに、免疫抑制下のゲッチンゲン・ミニブタモデルにおける検証も行われました。胸腺および脾臓を摘出して免疫細胞を除去した後、ストレプトゾトシン投与により糖尿病を誘導し、iPICs移植を実施しています。移植前にはブタC-ペプチドがほとんど検出されませんでしたが、移植後1~5週で空腹時および食後にヒトC-ペプチドの明確な増加が認められ、5週後の摘出時にもインスリンおよびグルカゴンの発現が維持されていました10)。
山内●医師主導治験の設計について教えてください。
矢部●京都大学病院で実施中の医師主導治験は、単施設・単群・用量漸増試験として設計されており、3例での安全性評価を主目的としています。本治験は、AMEDの橋渡し研究プログラム シーズF「iPS細胞由来膵島細胞を用いた1型糖尿病に対する細胞治療開発」(代表:オリヅルセラピューティクス株式会社、橋渡し研究支援機関:京都大学)として実施しており、治験製品の製造はオリヅルセラピューティクス株式会社が担っています。
試験では3つのコホートを設定し、コホート1から段階的に移植細胞数を増加させ、コホート3では膵島移植と同程度の細胞数を移植します。移植は全身麻酔下で腹部皮下に実施し、術後もインスリン療法および免疫抑制療法を継続します。血糖変動はCGMにより評価します。主要評価項目は、移植後1年間に発現する有害事象の種類、重症度、重篤度および発現頻度です。副次評価項目として、血中・尿中C-ペプチド濃度、CGMデータ、HbA1c、インスリン離脱の程度を測定し、さらにPatient Reported OutcomeとしてSF-36およびDTR-QOLを用いたQOL評価を実施します。加えて、移植後5年間の長期安全性フォローアップも予定しています。
移植部位として皮下を選択することで、万一の腫瘍形成時にも監視が可能です。さらに免疫抑制剤を中止すれば自然排除されるとも考えています。

免疫回避戦略の現状と次世代技術への展望
山内●課題の一つである免疫抑制の問題はどのように解決していくのでしょうか。
矢部●現時点ではいずれの研究においても免疫抑制剤が必須です。しかし、遺伝子改変による免疫ステルス化が実現すれば、免疫抑制剤に関連する感染症や悪性新生物などの課題を克服しうる可能性があります。特にゲノム編集によるHLAやPD-L1などの遺伝子改変を通した低免疫原性化が期待されています。実際、ゲノム編集によるHLA遺伝子改変免疫ステルス化膵島の移植試験について良好な結果も報告されています11)。
β細胞増殖薬の開発と再生医療の新たな可能性
山内●移植療法とは異なるアプローチとして、生体内でβ細胞増殖を促進する治療についてお聞かせください。
矢部●この分野は近年、めざましい進展を遂げています。例えば、米国のベンチャー企業ではメニン阻害薬の開発が進められており有望視されています。メニンは、インスリノーマを含む膵神経内分泌腫瘍の分野でよく知られた分子であり、膵β細胞の増殖を抑制する役割を担っています。このメニンの機能を一時的に阻害し、β細胞の増殖を促進することが、この治療戦略の基本的な発想です。BMF-219という経口メニン阻害薬はすでに第2相臨床試験が報告されています。2型糖尿病をもつ人に12週間投与した後、投薬中止後の観察期間においてもHbA1cの改善が持続することが確認されています。これは、薬剤により増えたβ細胞の機能が長期維持していることを示唆する重要な所見と思います。
インスリン分泌障害を特徴とするアジア型の2型糖尿病において有効であると期待しています。現在、1型糖尿病を対象とした臨床試験の準備も進められているとのことで今後の動向が楽しみな薬剤でもあります。
山内●1型糖尿病の場合には、やはり免疫抑制剤の併用が必要になるのでしょうか。
矢部●1型糖尿病ではやはり免疫抑制剤との併用が必要と考えています。
山内●異種移植についてはいかがでしょうか。膵臓欠損ブタにヒトの細胞で膵臓を作らせて移植するという発想も興味深いですが。
矢部●2023年には、ブタの腎臓をヒトに移植する治療法が米国FDAによって承認され、大きな注目を集めました。これは、糖鎖修飾酵素の遺伝子群を欠失させた遺伝子改変ブタを用いることで、ヒト側の免疫応答を著しく低減できることが実証された成果です。この技術的枠組みを応用することで、将来的には膵臓移植にも同様のスキームを展開できる可能性が期待されています。特に、膵島や膵臓全体の異種移植において、免疫寛容化技術との組み合わせが実現すれば、再生医療と臓器移植の境界を越える新しい治療戦略が拓かれることが期待できます。特にES細胞やiPS細胞を用いた再生医療は高コストであり、細胞製造・品質管理・保管に多大な労力を要します。そのため、ブタを“バイオリアクター”として利用し、体内でヒト由来の臓器を育成・収穫する技術は、このコスト問題を根本的に解決しうる有望な方向性と考えられます。
糖尿病根治への道筋
山内●分化誘導技術についてお聞きします。in vitroでの膵β細胞分化過程の研究を進めてより完成された細胞を移植すべきか、それとも体内での分化を活用すべきかという点はいかがでしょうか。
矢部●ES細胞やiPS細胞をβ細胞へ分化誘導する過程では、インスリン陽性細胞は得られるものの、グルコース応答性インスリン分泌が認められないというジレンマが存在していました。転写因子ERRγの強制発現によりグルコース応答性インスリン分泌が認められるといった報告もなされており、分子機構の理解が進展しています。iPS細胞やES細胞から分化誘導した膵島細胞の移植では、移植直後にはC-ペプチドが検出されず、移植後に徐々にC-ペプチドが検出されるようになります。in vitroで完全に成熟したβ細胞を作り上げるより、生体内で最終分化されることで、コストを抑制することができます。また、成熟したβ細胞は酸素消費量が多く、移植後の生着率の観点からも生体内で分化させることが合理的な戦略と考えられます。
山内●最後に、将来への展望をお聞かせください。
矢部●糖尿病をもつ人がインスリン注射から解放されることの意義は計り知れません。β細胞を補充する、あるいは生体内で再生・増殖させる治療が実現すれば、将来的には「糖尿病」という疾患概念そのものを克服しうる可能性も期待できます。
このような治療の進歩は、医学的な側面にとどまらず、社会的・心理的側面においても大きな意味をもちます。とりわけ、わが国でも近年議論が高まっている糖尿病に対するスティグマ(偏見や差別)の解消に寄与することも大いに期待されます。
山内●本日は大変貴重なお話を伺いました。糖尿病をもつ人達に希望を与える画期的な治療法の実現を心から期待しております。ありがとうございました。
参考文献
1)Matsumoto S, et al. Lancet 365(9471): 1642-1644, 2005.
2)Anazawa T, et al. Transplant Direct 11(3): e1765, 2025.
3)Nakamura T, et al. J Diabetes Investig 11(2): 363-372, 2020.
4)Fujikura J, et al. J Diabetes Investig 16(3): 384-388, 2025.
5)Shapiro AMJ, et al. Cell Rep Med 2(12): 100466, 2021.
6)Ramzy A, et al. Cell Stem Cell 28(12): 2047-2061.e5, 2021.
7)Reichman TW, et al. N Engl J Med 393(9): 858-868, 2025.
8)Wang S, et al. Cell 187(22): 6152-6164.e18, 2024.
9)Mallapaty S. Nature 634(8033): 271-272, 2024.
10)Yamasaki M, et al. Cell Transplant 33: 1-17, 2024.
11)Carlsson PO, et al. N Engl J Med 393(9): 887-894, 2025.
