Diabetes Front

DITN No.508 掲載

膵臓β細胞の分化・新生、減少、増殖とその制御因子

ゲスト

稲田 明理先生

奈良女子大学 研究院 生活環境科学系 食物栄養学領域 教授

ホスト

中神 朋子先生

東京女子医科大学 内科学講座 糖尿病·代謝内科学分野 教授

中神●糖尿病医療の近年の進歩で注目されている分野に再生医療があります。将来、生体内でβ細胞を増やすような治療法を確立できるのではないかと、糖尿病医療従事者は大きな関心を寄せています。β細胞の幹細胞が膵管上皮細胞から生成されることを、マウスで突き止めることに初めて成功し、日本糖尿病学会の女性研究者賞を2024年度に受賞されました稲田明理先生をゲストに、この分野の最新のお話を伺います。

糖尿病治療方法の変化・進歩と膵臓β細胞再生研究の現在

中神●糖尿病の現在までの治療薬の進歩の大まかな流れの解説をお願いします。

稲田●ご存知のように1920年代から、ブタや犬、魚の膵臓からインスリンの抽出が始まり、1950年代にインスリンを構成するアミノ酸と配列が決定され、立体構造が解明されました。1980年代にヒトインスリン遺伝子のクローニングが成功し、遺伝子工学や組換え技術の進歩によりインスリンの合成に成功して、バクテリアや酵母で生産できるようになりました。1990年代以降は作用時間の異なるヒトインスリン製剤を含め、さまざまなタイプの薬が開発されてきました1)

 1980年頃から1998年頃に、受精後まもない胚から作られた動物やヒトの胚性幹細胞(ES細胞)、2007年にはヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)が樹立されたので、2020年代には再生医療の応用や細胞移植療法の資源として、試験管内で分化させたものを人体に移植することが期待されました(図1)。しかしin vitroにおけるβ細胞の作製は困難を極めており、いまだに実用化につながる成功例は極めて少ないのが現状です。

 2000年代から膵島を移植する技術も発展してきており、免疫隔離膜を装着したデバイスや特殊なカプセル、あるいはヒドロゲルやシートの中に膵島を封入して、皮下や腹腔内に移植する方法などの開発が進められてきました。しかし今でも、これらは一般的になっていません。移植膵島が生存して生着するには、新しく血管が移植膵島へ伸びていき酸素と栄養素を供給することが必要なのですが、免疫隔離膜により新生血管が遮断された場合は、酸素と栄養素の供給が不十分になり、多くの移植膵島は死滅してしまいます。すると、十分量のインスリンを分泌できずに血糖を下げる治療効果を発揮できなくなってしまうのです。

 一方、生体から取り出したヒトの膵島の移植医療も実施されてきました。ただ、ヒトの膵島移植にはドナーや免疫抑制剤の問題があります。移植細胞に対する拒絶反応を防ぐために免疫抑制剤の使用が必須で、移植後は生涯にわたり免疫抑制剤を服用しなければならず、免疫力低下による感染症や悪性腫瘍を誘発するなど、副作用が課題となります。小児においては、免疫抑制剤は発育障害をもたらす副作用があり使用できませんので、膵島移植は行われていません。そこで免疫抑制剤を用いない、新しい拒絶反応を制御する方法や、あるいは膵島を移植する時の素材の工夫がなされ、さらに移植部位としては従来、肝臓が用いられてきましたが、肝臓特有の早期拒絶反応などの課題があったのでそれを皮下脂肪組織内にするなど、工夫はずっと行われてきました。

 しかしヒトの細胞も、試験管内で作ってきた細胞もどちらも生着率が悪いのです。移植当初は血糖値が下がって良好なのですが、数カ月、あるいは1年経つと、せっかく移植したものがなかなかもたない、一生もつことがないという、新たな課題も出てきています。

 さらに、異種移植、ヒトの臓器をブタの体内で作ってヒトに戻すという画期的なアイデアも生まれています(図1)。例えば遺伝子操作によりブタの細胞から拒絶反応に関係する遺伝子などを削除し、ヒトの遺伝子を挿入した遺伝子組換えブタを作り、そのブタの中で作られた心臓や腎臓を取り出してヒトに移植することが実際にアメリカで実施されたのですが、残念なことに移植を受けた患者様2人は2カ月後に死亡するという結末になり、その後、進展がないと認識しています。科学者がブタの体内で完全なヒト臓器を作出するには、拒絶反応を防ぐためにどの程度の遺伝子改変が必要なのかなど、課題があります。このように有効性の高い糖尿病の治療方法や治療薬が常に求められている現状があります。

図1 β細胞を補充する2つの方法

膵管上皮細胞にβ細胞の幹細胞が存在、一部のβ細胞が供給される

中神●現在の糖尿病治療薬では残存するβ細胞の量が減ってしまうと血糖管理は難しくなります。血糖管理が大変困難な場合は膵島移植が検討されますが、生着率の低さや免疫抑制剤の副作用、ドナー不足などの課題を抱えているため、新たな治療法の開発が待たれます。近年、研究者は糖尿病におけるβ細胞の減少を補うため、in vitroでES細胞やiPS細胞などからβ様細胞を分化させようと試みています。これに対して稲田先生のご研究は、in vivoでβ細胞を刺激して新生·増殖誘導し、β細胞を補充するという新たな発想です。

稲田●糖尿病のβ細胞減少を補うために、in vivoでβ細胞を刺激·増殖誘導させる、あるいはその幹細胞を刺激して分化させる方法があるのではと考えました。私たちは生後の膵β細胞の起源と分化·新生、減少、増殖とこれらのプロセスの制御因子に焦点をあてて、糖尿病モデルマウスを用いて、細胞生物学的研究を推進してきました(図1)。

中神●先生はアメリカで、β細胞の幹細胞が膵管上皮細胞にあることを実証されて、生後のβ細胞の供給源をめぐるそれまでの議論を変えたと位置づけられています。膵管上皮細胞から出生後にもβ細胞が分化していることを示された研究についてご解説ください。

稲田●マウスやラットでは、出生後最初の1カ月の間にβ細胞が急激に増加することが知られています。細胞分裂のみによる増加(推計値)と実際の細胞数との間には、顕著な差があります。つまり、β細胞は分裂だけではなく、他の細胞、例えば幹細胞から供給されていて、その割合は30%から50%はあるのではないかと考えました。

 β細胞が形成される幹細胞には、いろいろな細胞があるのではないか、膵臓内の細胞では、膵管上皮細胞、腺房細胞、あるいは未知の細胞と考えられてきましたし、膵臓外細胞もあります。数ある候補の中から、膵管上皮細胞を考えたのは、膵島が膵管上皮細胞に隣接して存在することや、急激にβ細胞数が増加する成長期や成体の組織再生時において膵管上皮細胞中にβ細胞が多く見られるからです。肥満の人の膵臓組織においても、膵管上皮から大量のインスリンの陽性細胞の像が観察できます。また、2000年にはヒトの膵島移植で移植しない残りの細胞から膵管を集めてきて長期間培養すると、割合は少ないけれども試験管の中でβ細胞に分化した実験結果もあります。このような背景から、膵管上皮細胞が組織幹細胞で、ここから一部のβ細胞になるのではないかと、1960年代より注目されてきました。

 細胞を遺伝子標識(マーキング)して追跡するという、少し複雑な実験方法がありまして、その手法を用いて膵管上皮細胞をマーキングすると、もし膵管上皮細胞が分化してその性質を失い、性質の違う細胞に変わっていたとしても、マーカーが半永久的に失われない工夫によって残るので、膵管上皮細胞由来であることが分かります。このマーカーを利用して、膵管上皮細胞から一部のβ細胞や腺房細胞に分化していることが分かりました2)

インスリン遺伝子の転写を制御する転写因子

中神●次にβ細胞の抑制因子の増加がインスリン産生の低下とβ細胞の減少につながっていることをどのように明らかにされていったか、解説をお願いします。

稲田●膵管上皮細胞から、膵ラ氏島、β細胞、腺房細胞に実際になることが分かったのですが、ここから膵β細胞に分化するものの数はすごく少なかったのです。ですので、幹細胞からの分化を刺激して、糖尿病の回復につなげていくのは、難しいと思っています。

 以前、糖尿病はインスリン分泌量が少ないから発症すると考えられていて、私の学生の頃は産生と分泌は別ものだと切り離して考えられていました。しかし、糖尿病の後藤柿崎ラットの膵島の発現解析をしますと、実際にはインスリンのメッセンジャーRNAが非常に少なくなっていることが分かりました。インスリンの量が減るから分泌が減るのではないかと考え、インスリンの量を規定しているものとして、インスリン遺伝子の転写を制御する転写因子が重要ではないかと考えて、膵臓β細胞の中に発現している転写因子に何があって、どのくらいの量か解析しました。当時は転写因子が盛んにクローニングされていた時期で、さまざまな活性型の転写因子が発見されていたのですが、私は車にアクセルとブレーキがあるように、両方が必要ではないかと思い、複数の転写因子をクローニングしました。その中に活性型と抑制型の両方を見つけることができました。

中神●どのように見つけたのでしょうか。

稲田●糖尿病状態やグルカゴンレベルが上昇すると、抑制型因子が増えることが分かりました。この抑制型因子が過剰発現すると糖尿病になるのではと思いつきました。つまり、活性と抑制のバランスの上に成り立っているだろうと思ったので、抑制型因子を極端に増やすとどうなるかを、トランスジェニックマウスを作って確かめました。するとたった1つの転写因子が増えただけでマウスが重症の糖尿病になり、調べますとβ細胞が劇的に減っていたのです。それは抑制型の転写因子が増えることによってインスリン産生が減少し、さらに細胞の増殖を司るCyclinAも減少していて、それでβ細胞が一気に減ったことが分かり、インスリン産生量、β細胞量の増殖を規定する抑制型の転写因子が関わっていて、抑制因子と活性化因子の転写因子のバランスが重要であることが証明されたのです3)図2)。

 その過剰発現したマウスを毎日喜んで観察しておりますと、高血糖が持続し、腎症になっていきました。ここから高血糖だけで腎症が進行していくことが分かり、糖尿病性腎症のモデルとして確立しました4)。高血糖マウスに様々な手法で介入し、血糖値を正常範囲に回復させると、随分腎臓も回復することがわかりました。昔から腎症が悪化すると回復は難しいといわれていましたが、驚くほど回復しました5、6)

中神●高血糖が及ぼす影響は大きいですね。先生の研究を進展させて、将来、ヒトに応用するには何が必要でしょうか。

稲田●糖尿病マウスでβ細胞を再生させる、つまり新生させたり、増殖させたりするのは非常に難しいという印象を持っています。インスリン注射を長期間行ってもβ細胞は増えません7)。他のもので刺激してもなかなか増えなかったのです。現在はβ細胞の増殖を司る遺伝子の研究を進めていて、今後は、なぜ良くなるのかというメカニズムを詰めていきたいと思っています。それが明らかになれば、治療に役立つヒントが得られるのではないかと考えています。

中神●多くの疾患の治療につながる可能性がある、夢のある研究だと思います。

図2 インスリン遺伝子とサイクリンA遺伝子は転写活性化または抑制因子により制御され、糖尿病に性ステロイドホルモンが関与、膵管上皮細胞はβ細胞を分化

「ちょっと真実を見せてください」という気持ちで研究

中神●ハーバードのジョスリン糖尿病センターでの研究はいかがでしたか。

稲田●私は、大学院時代から遺伝子に関する研究を続けており、糖尿病マウスの作製や解析も経験があったのですが、アメリカでは実験条件が異なっていたため、慣れていた遺伝子実験がなかなかうまくいきませんでした。幹細胞の実験は、3年目にマウスの作製を最初からもう一度すべての行程をやり直す決心をして、正確な結果を導き出すのに計5年間かかりました。顕微鏡の下で初めて、膵管上皮細胞から出てきた膵ラ氏島にキラキラ緑色に光る点々があるのを見た時、本当に涙があふれました。

中神●粘り強い努力を重ねて成功した瞬間ですね。

稲田●やっと結果を出したのですけれども、そこから論文が通るまで、雑誌の編集者が変わって突然落とされたり、審査員との激しい議論があったりで、さらに2年ほどかかってしまいました。彼らは単に新しい説を受け入れたくないだけなのか、それとも何らかの利害関係があるのか、初めての説はなかなか承認されないことが身に沁みました。

中神●約30年間の研究生活をどういう思いで続けてこられたのでしょうか。

稲田●楽な時は全然なくて、しんどい思いの連続でした。医学や生物の研究は、もともと自然に存在するものの仕組みを解き明かし、「おそらくこの過程はこう機能するのだろう」「おそらくこれがその仕組みだろう」といった推論を行っているのだと思います。人間がこれらのものを一から創造したわけではないので、私たちは常に「人間が偉いわけではない」ということを忘れず、研究に臨む際には「どうか私にちょっと真実を見せてください」という気持ちで取り組んでいます。

リーダーになる女性を増やすために

稲田●先生は女性リーダーとして、何が大事だとお考えですか?

中神●最後は自分が責任を取る、という覚悟を持つ女性人材を育てなくてはと思います。日本の若い人たちも変わってきていますので、今後に期待しています。

稲田●思い返すと日本の教育、社会にはアンコンシャス・バイアスがあると感じています。皆が子どもの頃からずっと「女性だから」「嫁だから」という価値観を埋め込まれてきたのではないでしょうか。

中神●そうですね。私自身、自分から引いてしまったりするような埋め込まれた価値観もあったと感じます。性別に関係なく昇進や活躍ができる環境と、平等な育児参加などを促進する社会の雰囲気作りが大切で、そのために私たちは学生に男女格差のない世界を作る重要性を伝えて、卒業後も男性と変わらずに、研究を続けていける人材を育てたいと思います。女性のキャリアアップを進めてリーダーを増やすには、ドリルで穴を開けるように私たちの力で少しずつ社会を変えて、進んでいくしかないと思います。

稲田●ありがとうございます。励みになります。

中神●最後に、研究を続けるためには、どのような機会や環境が重要になるとお考えでしょうか。女性研究者のキャリア形成や研究を志す後進を後押しするアドバイスを、お願いいたします。

稲田●女性にとっては、進学、就職、結婚、育児に遭遇した時に初めてこの世の中の女性の生きづらさを実感することになると思います。しかし私は、それらに直面した際に困難と認識し、乗り越える勇気と強い希望を持つことが重要だと考えています。同時に、継続的な努力も必要です。私は約30年間にわたり研究活動を続けてきましたが、決して容易な道のりではなく、成果を挙げたり、研究を継続したりする上で、多くの困難の連続でした。しかし、私は一人ではなく、周りに理解してくれる人がいました。切磋琢磨する良き友人たちや、模範(ロールモデル)となる存在がいました。私のロールモデルは、米国で研究していた時の女性教授、スーザン・ボナーウイアー博士(当時は准教授)です。スーザンは、研究責任者(PI)として、博士研究員全員の仕事に対し、一人ひとりと向き合いながら、直接指導しておられました。私とスーザンは実験で60匹のマウスを解剖し、細胞の観察も一緒に楽しんで行いました。スーザンは結果が出る頃、待ちきれず実験室に訪れ、「どうなった?」と尋ねて来られたことがよくありました。また海外の招待講演や筆頭著者として学術論文の執筆を精力的にこなし、エネルギッシュに活躍するのを目の当たりにしたことが、困難な状況でも努力を続ける動機付けになったと思います。自分の行動を通して他者を鼓舞し、模範となることは重要だと考えます。

 さらに、私が困った時に手を差し伸べてくださった方や、協力し支えてくださった方々、そして友人や家族の存在も忘れてはいけないと思います。彼らのおかげでここまで続けることができたと思いますので、自分を支えてくれる人々に対する感謝の気持ちを大切にすることが重要です。まとめますと、キャリア形成には、困難に立ち向かう強さ、継続的な努力、周囲への感謝、そして他者を励ます姿勢が重要ではないかと考えており、その実現に努めたいと思います。

中神●本日は大変、興味深いお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。


参考文献

1)糖尿病サイト:インスリンの100年 インスリン製剤の誕生とその進化. https://www.club-dm.jp/novocare_all_in/inslin/inslin2.html

2)Inada A, et al. Proc Natl Acad Sci USA 105(50): 19915-19919, 2008.

3)Inada A, et al. Mol Cell Biol 24(7): 2831-2841, 2004.

4)Inada A, et al. Am J Pathol 167(2): 327-336, 2005.

5)Inada A, et al. Am J Pathol 192(7): 1028-1052, 2022.

6)Inada A, et al. J Am Soc Nephrol 27(10): 3035-3050, 2016.

7)Inada A, et al. Diabetol Int 1(1): 49-59, 2010.