Diabetes Front
DITN No.506 掲載
心不全診療UPDATE
―循環器内科と糖尿病内科との連携に向けて―
ゲスト

伊藤 浩先生
川崎医科大学 総合医療センター内科部長/特任教授、日本循環器学会「糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント」委員
ホスト

宮塚 健先生
北里大学医学部 糖尿病・内分泌代謝内科学 主任教授
宮塚●高齢化により心不全を合併する2型糖尿病患者が増加し、心不全パンデミックともいわれる状況の中、糖尿病内科においても心不全を合併した患者を診る機会が増えています。心不全の臨床・研究において長年にわたり世界の第一線で活躍し、糖尿病診療にも造詣の深い伊藤浩先生をゲストにお招きし、最新の心不全診療について伺います。
心不全合併糖尿病患者に対する診療の現在地
宮塚●心不全を合併した糖尿病患者の診療について、その現状と課題をご教示ください。
伊藤●糖尿病内科と循環器内科はあまり接点がないのが実情ですので、今日は大変よい機会だと思います。お互い、懸命に治療をしていますが、それぞれの治療のゴールが違っていて、アウトカムがどうなっているか、お互い知らないことが多いのです。なぜこうなったのかというと、糖尿病には腎症、網膜症、神経障害の三大合併症がありますが、これに冠動脈疾患は入っていません。また、糖尿病においては実は心不全が多いことがはっきりしてきたのです(図1)1)。振り返ってみますと、1970年のFramingham studyは疫学調査で、一般住民の心臓を診てアウトカムを調査したものですが、糖尿病を持っているだけで心不全の発症頻度が女性で5倍、男性で2.4倍になっています2)。しかし、そこにアプローチできないままでした。世界的な統計をみれば、糖尿病患者において初回入院の一番の原因は心不全です。ところが心不全は疑わない限り、なかなか分からない。例えば階段で息切れをしたとしても、ゆっくり歩けばいいわけですし、「太っているからだ」と医師も患者も思い込むことが多いと思います。

糖尿病は心不全のハイリスク要因:HbA1cをこえた治療戦略の重要性
宮塚●私自身、心不全の視点から患者を診ることはそれほど多くはなく、認識が至らない点があるかもしれません。
伊藤●日本循環器学会と日本心不全学会の合同ガイドラインとして「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」が作成され、心不全とそのリスクの進展ステージ(図2)が掲載されています。危険因子はあるものの症状のないステージAから、難治化してしまったステージDへと進行していきますが、糖尿病はステージAの危険因子に入っています。つまり糖尿病患者は、すでに心不全のステージAであり、ハイリスクであると認識することが大事だと思います。
宮塚●糖尿病医療に携わる私たちは、具体的にどのような点に注意すればよいのでしょうか。
伊藤●日本心不全学会からは2つのパラメーター、BNPとNT-proBNPを使うことが提唱されました(図3)。BNP≧18.4pg/mLあるいはNT-proBNP≧55pg/mLであれば、心不全を考慮すべきとされています。心不全になるとレニン-アンジオテンシン系が亢進し、それを抑える系のBNPが増加しますので、BNPがこの値より少し高いだけでも心不全を疑う必要があります。
またBNPが35pg/mL以上100pg/mL未満、あるいはNT-proBNPが125pg/mL以上300pg/mL未満だと「前心不全、または心不全の可能性がある」となります。患者に自覚症状はほぼないため、先生方も放置してしまいがちで、注意が必要です。もう一つ考慮してほしいことは2型糖尿病に存在するインスリン抵抗性です。心筋にとってインスリンが効きにくいということは、エネルギーとしてのブドウ糖を取り込みにくいということです。心筋は6~7割が脂肪酸を燃やしてATPを作っています。2~3割がブドウ糖で、あとは乳酸、そして本当に空腹時になればケトン体を燃やすことができます。
しかし、インスリン抵抗性があるとブドウ糖が入ってこなくなるため、心筋はエネルギーコストの悪い脂肪酸をより多く利用することとなり、その脂質中間代謝産物が細胞内に蓄積しやすくなります(脂肪毒性)。この心筋への脂肪沈着により心機能の低下が生じます。さらにミトコンドリア機能も低下し、一挙にエネルギー代謝が悪くなってきて、いわゆる拡張の悪い心不全、HFpEF*1(拡張性心不全)が生じてしまうのです。
宮塚●血糖値が高くても心筋内ではブドウ糖が不足しているということですね。
伊藤●これは高血糖になるもっと前の肥満の段階で起きてきます。つまり肥満がHFpEFにつながるということです。
宮塚●糖尿病になる前の段階ですでに心不全の入口にいることになります。
伊藤●次に血糖値が高くなって、心筋細胞に炎症が起きることで周りの線維化が起きてきて、左室心筋が硬く広がりにくくなり、HFpEFとなります。つまり糖尿病性心筋症は拡張不全という形で出てきます。そして心肥大がとても多いのですが、これはエコーで見ないと分かりません。ですから心不全の一次予防のために、先生方の段階でBNPまたはNT-proBNPを測り、エコーの検査をしていただきたいのです。HFpEFの患者は多く、命にかかわる疾患なのですが、なかなか周知できていないのが現状で、今後の課題です。
宮塚●われわれによる心不全の一次予防が重要ということですね。
伊藤●糖尿病診療にあたられている内科のかかりつけ医、また糖尿病専門医の先生方には心不全の予防を念頭においた治療を考えていただきたいのです。
宮塚●循環器内科にお世話になる前から心エコーを行った方がよいでしょうか。
伊藤●はい、ぜひお願いしたいです。左室心筋の厚さがだいたい11ミリまでは正常だと思われていますが、そのレベルで実は心肥大に入っています。
宮塚●その他に進めておくべき検査はありますか。
伊藤●50歳以上の糖尿病患者は足関節上腕血圧比(ABI)を計測することが推奨されています3)。ABIは足首と上腕の血圧比で、下肢動脈硬化が分かります。しかし、なかなか実施されていないのが現状です。
宮塚●ABIの正常値は1.0から1.4のように、基準が分かりやすいと思います。
伊藤●ABIが0.9未満ですと末梢まで及んだ動脈硬化、さらに0.4未満ですと重症の下肢動脈硬化病変の存在を示しています。
宮塚●伊藤先生は2010年代前半に「血糖コントロールから血管コントロールへ」を提唱されていました。
伊藤●血糖値のみに注力するのではなく、さまざまな要因に左右される血管の健康に留意する、つまり合併症の評価と対処が大切なのだと思います。例えば欧米のガイドラインはエビデンスに基づいて変わってきました。今、彼らのステップ1は「合併症の評価」になっています。合併症によって、HbA1cにかかわらず、推奨される治療薬が決まるようになっているわけです。


心不全に対するAdditional benefits
宮塚●心不全患者に糖尿病治療薬を選択する際の注意点をご教示ください。
伊藤●まずインスリン抵抗性を改善したいのです。血糖値の改善のみならず心不全の視点からも重要です。
宮塚●インスリン抵抗性を改善するという観点ではメトホルミンも候補に挙がるかと思います。いかがでしょうか。
伊藤●メトホルミンは最近のスタディで心不全に対するベネフィットが示され、欧米ではよく用いられていますが4-8)、日本では心不全には禁忌とされています。
宮塚●GLP-1受容体作動薬はその体重減少効果と相まってインスリン抵抗性改善も期待できます。心不全診療に対する有効性も示されていますが、この点はいかがでしょうか?
伊藤●STEP-HFpEF試験では、肥満を合併したLVEF(左室駆出率)の保たれた心不全に対するGLP-1受容体作動薬の効果が検討されました9)。その結果、糖尿病の有無にかかわらず、心不全のサロゲートマーカーの改善を伴って、体重減少・自覚症状の改善・6分間歩行距離の延長が得られており、CRPの減少など内臓脂肪の減少も示唆されました。動脈硬化も炎症ですから、CRPの減少という抗炎症効果が現れたことには驚きましたが、動脈硬化も炎症であることを考えると納得できますね。
宮塚●近年、SGLT2阻害薬のアディショナルなベネフィットが次から次へと出てまいりました。
伊藤●SGLT2阻害薬は、尿に糖を排出させるシンプルな作用の薬剤だと思っていたら、糖尿病にも、そうでない方の心不全、腎不全にも効きます10, 11)。私はこれを「腎臓を楽にする薬」だと考えています。われわれの身体では尿糖をゼロにするように、原尿に出てきた糖をナトリウムと一緒に近位尿細管で再吸収しています。それがATPを必要とします。糖尿病になると高血糖、そして高尿糖になるので、それを全部再吸収するには莫大なエネルギーを使い、腎臓が虚血になってしまうのです。それと、ナトリウムも同じモル数を吸収するために、むくみやすかったのです。これらが心不全につながっているわけです。
SGLT2阻害薬のブドウ糖再吸収抑制によって腎臓の虚血が取れ、浸透圧利尿、ナトリウム再吸収抑制によるナトリウム利尿、そして心腎連関で交感神経を介して心臓に対してよい効果が出てきて、突然死も減りました。それ以外にもこの薬はブドウ糖がどんどん排出されるので、飢餓と同じような状態になりますから、いわゆるサーチュイン遺伝子を活性化して、いろいろな臓器への保護効果も出てくるという、諸種の効果が加算的に出ていると考えられます。
SGLT2阻害薬は、心不全、腎不全の基礎的な治療薬だと思います。もし尿路感染症になってしまっても、治療も予防もできますので、それだけで薬を切らずに継続していく方向で考えていただきたいと思います。
宮塚●メトホルミン、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬の使い分けはどのように考えればよいでしょうか。
伊藤●糖尿病の罹病期間が浅く、心不全発症前であれば、まずメトホルミンを、肥満であればGLP-1受容体作動薬を、心不全のリスクが高ければSGLT2阻害薬を検討していただきたい。そして心不全をくい止めてほしいと思います。
宮塚●SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬の併用は、血糖降下作用だけではなく体重管理にも有効であることが報告されています。心不全に対しても同じと考えていいでしょうか。
伊藤●そう思います。
宮塚●私が研修医だった90年代と大きく変わったと感じているのは、心臓の悪い方に対しても循環器の先生が運動療法を推奨するようになったことです。
伊藤●血糖値が上がってインスリンが出て、どこに取り込まれるかというと、骨格筋なのです。骨格筋が満杯になると次に脂肪、肝臓に取り込まれます。糖をしっかり取り込むためには骨格筋を太くすることも大事です。
宮塚●具体的なポイントをお願いします。
伊藤●高齢者でも筋力を強化するレジスタンス運動のトレーニングをしていただきたいし、有酸素運動も必要だと思います。有酸素運動は脈拍120から130を超えない範囲内の運動が適していますので、脈拍を測りながら行ってください。心不全の予後の改善にもいいですし、糖尿病にも当然プラスです。もちろん、その方の状態によっては、運動をお勧めできないケースもあります。
糖尿病専門医が心不全を診る際の留意点
宮塚●心不全を合併した糖尿病患者を診る際に、糖尿病内科ではどのような点に注意すればいいでしょうか。
伊藤●実際のところ、循環器内科医は減少傾向にありますので、心不全の一次予防はかかりつけ医の先生、あるいは糖尿病専門医の先生にお願いしたいのです。うまく連携するにはコミュニケーションがとても重要だと思います。
宮塚●高齢化により心不全を合併する2型糖尿病患者が増加している中にあって、循環器内科の医師が減っているのですね。まさに心不全パンデミックともいわれるこの状況に対してどのような方策が必要でしょうか。
伊藤●まずはガイドラインで医療の標準化をしました。例えばHFrEF*2(収縮性心不全)で30%の収縮不全がある患者には4つの薬、β遮断薬、ARNI(またはACE阻害薬)、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬を使うようになっていて、これら4剤は「ファンタスティック4」と呼ばれています。循環器の薬物治療は、かなり定まっているのです。ポリファーマシーの問題もありますので、かかりつけ医の先生、あるいは糖尿病専門医の先生のところで処方していただきたいのです。
宮塚●循環器の先生には最初の診断と今後の方針を決めていただいて、その後は私たちが連携しつつ治療を行うということですね。
伊藤●その通りです。他科の先生方にご協力をいただき、うまくコミュニケーションを取りながら、なるべく効率のよい医療の提供をしていきたいのです。
宮塚●心不全は前段階を入れるととても多くの患者がいますので、かかりつけ医の先生方にもご協力をいただく必要がありますね。
伊藤●そうしていかないと、回らなくなってしまうと思います。
宮塚●われわれも循環器の先生と連携しながら、ファンタスティック4を含めて薬物治療を行っていきたいと思います。
伊藤●ぜひお願いします。
宮塚●逆になるべく早く循環器内科に紹介すべき症例はどうでしょうか。
伊藤●年に1回、レントゲン、心電図をとると思いますけれども、そこで心拡大、心房細動があった場合は紹介してください。また、年に1回BNPを測っていただいて、上昇がみられたら、われわれに一度診察させてください(図4)。
宮塚●本日は糖尿病医療に携わる私たち全てにとって重要な心不全診療への向き合い方について、予防と治療両面から大変分かりやすくご解説いただきました。今後は糖尿病のある方が心不全リスクを持っていること(図2のステージA)をより意識しながら診療してまいります。誠にありがとうございました。

*1HFpEF:heart failure with preserved ejection fraction
*2HFrEF:heart failure with reduced ejection fraction
参考文献
1)McMurray JJV, et al. Lancet Diabetes Endocrinol 2(10): 843-851, 2014.
2)McKee PA, et al. N Engl J Med 285(26): 1441-1446, 1971.
3)日本循環器学会・日本糖尿病学会 合同委員会 編:『糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するステートメント』南江堂, 2020.
4)Eurich DT, et al. Diabetes Care 28(10): 2345-2351, 2005.
5)Andersson C, et al. Diabetologia 53(12): 2546-2553, 2010.
6)Aguilar D, et al. Circ Heart Fail 4(1): 53-58, 2011.
7)Eurich DT, et al. Circ Heart Fail 6(3): 395-402, 2013.
8)Crowley MJ, et al. Ann Intern Med 166(3): 191-200, 2017.
9)Kosiborod MN, et al. N Engl J Med 389(12): 1069-1084, 2023.
10)McMurray JJV, et al. N Engl J Med 381(21): 1995-2008, 2019.
11)Packer M, et al. N Engl J Med 383(15): 1413-1424, 2020.
