Diabetes Front

DITN No.498 掲載

2型糖尿病のNAFLD/NASHについて

―臨床の最新知見―

ゲスト

篁 俊成先生

金沢大学大学院 医学系研究科 内分泌・代謝内科学

ホスト

川浪 大治先生

福岡大学医学部 内分泌・糖尿病内科学

近年、肝疾患において非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease:NAFLD)が増えており、中でも非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steato-hepatitis:NASH)の増加が注目されている。今回は2型糖尿病のNAFLD/NASHについて、編集委員の川浪大治先生が、本領域のスペシャリストのお一人である篁 俊成先生と対談し、先に発表された臨床試験結果や最新知見について伺った。

新しい概念の脂肪性肝疾患 MAFLD(マッフルディー)

川浪●まずNAFLDとNASHについて教えてください。

●NAFLDは、肥満や糖脂質代謝異常などの因子に深く関連する非アルコール性脂肪性肝疾患を指し、そのうち、肝硬変、肝癌へ進展するリスクの高い肝疾患がNASHです。

 ただし“nonalcoholic”に限定されており、飲酒習慣のある人や他の肝疾患を持つ人を除外するので、例えばC型肝炎などのウイルス性肝疾患やアルコール性肝障害などを持つ人に肥満、糖尿病などの因子が加わった場合は、病態としては明らかにNAFLD/NASHと同様であっても、診断はC型肝炎やアルコール性肝障害になります。その病態の背景に隠れているリスクを正確に評価できない点がジレンマでした。

川浪●メタボリックシンドロームとの関連性は大きいのですか。

●そうです。まだ確立はしていませんが、最近新しい概念として提唱されているのが、代謝異常を伴う脂肪性肝疾患(metabolic dysfunction-associated fatty liver disease:MAFLD)です(図11)。脂肪肝が前提となり、過体重・肥満がある、2型糖尿病がある、あるいはこれらがなくても従来のメタボリックシンドロームに該当するリスクを2つ以上併せ持てばMAFLDと定義してもよいことになります。

川浪●MAFLDは痩せ型の人でもなり得るのですね。

●アジア人ではオーバーウエートはBMI 23kg/m2以上と定義していますが、BMI 23kg/m2以下であっても、脂肪肝があって代謝異常があればMA FLDと定義することができます。

肝臓の炎症・線維化と高血糖について

川浪●高血糖が肝臓の炎症・線維化を促進するという話がありますが、どのようなメカニズムなのでしょうか。

●そこを明らかにしたいと考えています。

 肝臓に蓄積する脂肪は、約60%が内臓脂肪由来の、門脈を介して肝臓に流れ込む遊離脂肪酸です2)。食事の影響が約15%で、約26%はde novo lipogenesisといって肝臓で合成されます。肝臓で合成される脂肪は、血糖コントロールが十分ではない糖尿病患者によく見られるような高インスリン血症や高血糖によって、それぞれ転写因子SREBP-1c、ChREBPを介して脂肪合成酵素(lipogenic enzymes)が誘導されて亢進してきます。

 高インスリン血症、高血糖が著しい人では、本来26%であるde novo lipo-genesisの影響が高まるので、肥満症に見られる高インスリン血症や遊離脂肪酸の亢進のみならず、高血糖も肝臓の脂肪化を促進していきます。特に炎症・線維化には肥満にもまして血糖の影響が高いと考え、その機序に興味を持っています。炎症・線維化が進展し肝硬変のような状態のburned-out NASHになると、脂肪組織が減少し、トランスアミナーゼなども低下して体重はむしろ減り始めますが、一つにはその影響があるのかもしれません。

川浪●痩せ型の人でもMAFLDになるということでしたが、高血糖の影響が大きいのでしょうか。

●脂肪化、つまり脂肪肝という点では、やはり肥満の影響は大きいと思います。一方、de novo lipogenesisの影響というのはそれほど大きくないながらも、高血糖が続いている人、あるいは清涼飲料水の多飲などで高インスリン・高血糖が続く人では、肝臓が脂肪化しているので、高血糖の影響もあります。一に肥満、二に高血糖だと思います。

“隠れNASH”の見つけ方と診断のポイント

川浪●NASHと診断するには、生検は必須でしょうか。

●生検はゴールドスタンダードですが、いくつか課題があります。侵襲的であるということや、炎症や線維化は肝臓に均一に生じるわけではないため、サンプリングの部位によって過小評価や過大評価になることです。

 肝臓の脂肪化と線維化は、超音波や MRIを利用したエラストグラフィで評価できます。近年、消化器内科の先生方は肝生検をできるだけミニマムにして、複数のモダリティによる画像で評価する傾向にあります。ただし脂肪化と線維化をつなぐ炎症と肝細胞変性を評価するイメージングがまだ確立しておらず、そこを評価できるのが肝生検です。

川浪●われわれ糖尿病医は、日常診療において、NAFLD/NASH、MAFLDの診断をどのようなステップで進めていけばよいですか。

●糖尿病はNASHの炎症・線維化の促進に関与するので、糖尿病外来で単純性脂肪肝とNASHを見分けることは重要です。糖尿病外来でNASHをスクリーニングして見落とさない、また消化器内科と連携して肝癌を見つけていくことが大切だと思います。

 NASHのスクリーニング、すなわち“隠れNASH”の見つけ方をお話しします。

 ポイントは3つあります。①まず皮膚を診るです。肝障害の皮膚所見には、手のひらの外周が赤くなる手掌紅斑(palmar erythema)、頰・上腕などの上半身の毛細血管が拡張して不規則に広がり紙の赤い繊維のように見える紙幣状皮膚(paper dollar skin)、顔面・頸部・胸部・上腕などの上半身に毛細血管が遠心性に広がるクモ状血管腫(vascular spider)などがあります。頰の毛細血管拡張は早めに現れます。

 皮膚所見があれば、次は②血小板数を診るです。血小板数が20万(×104/μL)くらいになると要注意です。他の疾患が除外できれば約20万(×104/μL)以下で進行NASHを、15万(×104/μL)以下で肝硬変を疑います3)。NASHの患者では20万(×104/μL)程度で肝癌のリスクが高まるという報告もあります。

 3つ目は③AST/ALT比を診るです。ALT優位(AST<ALT)であればNA SHであってもしばらくの間は単純性脂肪肝ですが、AST優位(AST≧ALT)になると、線維化が進行したNASHになりますので、消化器内科と連携するべき症例かと思います。

 ②と③は、線維化の進行度を評価するFIB-4 indexの構成要素です。年齢を加えて計算すると、FIB-4 indexのスコアが出ます。NASHのカットオフ値は2.67です。電子カルテで自動計算される施設もあります。

川浪●日常診療において身体観察が重要であり、ルーティンで行う血液検査からFIB-4 indexのスコアを割り出すことで、NASHのスクリーニングが可能だということですね。スクリーニングの次は画像検査でしょうか。

●超音波の検査は必ずやっていただきたいと考えます。超音波エラストグラフィは全ての施設にあるわけではないですが、可能な場合は検査します。それから血液検査では、ヒアルロン酸やⅣ型コラーゲンなどの線維化マーカーも参考になります。MRエラストグラフィは消化器内科の先生からオーダーしてもらうとよいと思います。

 NASHの患者では、肝硬変に至る前に肝細胞癌が発生するケースがあるので、肝硬変でなくても、消化器内科と連携し年1回は肝細胞癌のスクリーニングを行うことが大切です。

SGLT2阻害薬、SU薬投与の臨床試験結果について

川浪●昨年発表された、NAFLD患者にSU薬またはSGLT2阻害薬を投与した臨床試験についてお聞かせください。

●NASHについて、何が最も影響して肝臓の線維化に至るのかを明らかにしたいと考え、今から13年前、当時39例の連続肝生検の結果を発表しました4)図2)。あくまでパイロット研究です。1~8.5年間経過観察し、前後で肝生検を行った結果、約1/3の人で線維化が軽減し、約1/3の人で線維化が進展していました。臨床パラメータを多変量解析で絞り込むと、最終的に残った線維化軽減の因子は、HbA1c低下とインスリン投与でした。インスリン投与が線維化に保護的に作用した点にやや驚きました。成長ホルモン・IGF-1シグナルが欠乏しているとNASHのリスクが高まることが報告されており、インスリンも同様に炎症・線維化に保護的に作用する可能性があります5)

 そこで高血糖とインスリンの問題を介入研究によって明らかにしたいと考えました。NAFLD患者にSGLT2阻害薬(トホグリフロジン群)またはSU薬(グリメピリド群)を投与し、血糖を同等に低下させながら、一方は内因性のインスリン分泌を低下させ(トホグリフロジン群)、一方にはそれを増加させ(グリメピリド群)、その比較を行ったのです。1年間前後でプライマリーエンドポイントを肝病理に置くという非常に厳しい臨床研究を遂行しました。

 結果は、トホグリフロジン群もグリメピリド群も同等に血糖を低下させ、トホグリフロジン群のみが体重を低下させて、グリメピリド群はニュートラルでした。プライマリーエンドポイントとして、トホグリフロジンは、肝臓の脂肪化を65%、肝細胞風船様腫大(肝細胞変性)を55%、肝細胞炎症を50%、そして肝臓の線維化については60%も軽減させたのです(図36)。意外なことにSU薬も、肝細胞風船様腫大を有意に軽減させ、線維化を軽減させる傾向を示しました。

川浪●それはSU薬でインスリン分泌が増えたことが、保護的に働いたためでしょうか。

●血糖低下に加えてインスリン分泌亢進も影響しているのかもしれません。

 これまで肝病理に有効な糖尿病関連薬には、ピオグリタゾン(pioglitazone)7, 8)、ビタミンE(vitamin E)8)、オベチコール(obeticholic)酸9)、リラグルチド(liraglutide)10)、セマグルチド(semaglutide)11)が報告されていますが、いずれも3~4割程度の線維化軽減効果でした。今回のトホグリフロジンによる線維化軽減率は6割ですので、重要な結果といえます。

 トホグリフロジン群のサブ解析結果では、脂肪化の軽減には体重減少とHbA1c低下が共に影響しています。一方、線維化の軽減については元の血糖値が高い人ほど、そして血糖値が下がった人ほど軽減しています。体重は逆に作用し、むしろ体重が増加した人の方が線維化は軽減しています。これは線維化が進むことで痩せてしまうようなburned-out NASHの病態も一部反映していると思います。

 脂肪化には高血糖と肥満が共に影響しますが、線維化に対しては血糖低下が影響していることが改めて分かりました。肥満の程度が軽度な日本人での解析から見えてきた“糖尿病脂肪肝炎(diabetic steatohepatitis:DiSH)”という病態が存在するかもしれません。

 トホグリフロジン群の遺伝子発現解析を行ったところ、エネルギー代謝、炎症・線維化に関与する遺伝子の肝発現は、肝組織学的変化と相関し、トホグリフロジンによって改善することが示されました。

川浪●他にも体重減少、血糖降下の作用を持ちNASHに効果のある薬剤がありますが、先生のこの研究では、SGLT2阻害薬が、これまでの結果を凌駕するような大変印象的な効果を示しました。その要因について教えてください。

●SGLT2阻害薬の多面的な作用については、今後もまだ多くの検討が必要ですが、例えば、ヘマトクリットを高めて、低酸素を是正する働きが血管内皮細胞を守り、それが肝臓への効果に関わっているようなことがあるかもしれないと考えています。

 現在、2型糖尿病に、心不全やタンパク尿を伴うCKDを合併すると、ファーストラインとしてSGLT2阻害薬が推奨されつつあります。今後、NAFLDを合併するケースでも、同様にSGLT2阻害薬が推奨される日が来る可能性はあると思います。

今後の課題と展望 治療薬の開発

川浪●最後に、NAFLD/NASHについて今後の課題、展望をお聞かせください。

●炎症・肝細胞変性をどう評価していくかという診断上の課題があります。多くのNASH患者を潜在的に診ていらっしゃる糖尿病診療に携わる先生方が、NAFLDの中からハイリスクNASHの患者を拾い上げ、消化器内科と連携して、肝硬変、肝不全、肝癌をスクリーニングすることが求められます。

 治療薬の開発については、日本人を対象とした検討により、DiSHの病理が明らかになってきましたが、世界的には肥満ベースのNASHが大多数なので、そういうケースにはこれから臨床に登場してくる高用量のGLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬に期待が持てると思います。治療にはまだ多くの課題がありますが、光も見えてきています。

川浪●われわれ糖尿病医は、糖尿病の併存症としてのNAFLD/NASHにもっと目を向けて診療していかなければならないと再認識いたしました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

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参考文献

1)Eslam M, et al. J Hepatol 73(1): 202-209, 2020.

2)Donnelly KL, et al. J Clin Invest 115(5): 1343-1351, 2005.

3)Yoneda M, et al. J Gastroenterol 46(11): 1300-1306, 2011.

4)Hamaguchi E, et al. Diabetes Care 33(2): 284-286, 2010.

5)Takahashi Y, et al. Gastroenterology 132(3): 938-943, 2007.

6)Takeshita Y, et al. Diabetes Care 45(9): 2064-2075, 2022.

7)Belfort R, et al. N Engl J Med 355(22): 2297-2307, 2006.

8)Sanyal AJ, et al. N Engl J Med 362(18): 1675-1685, 2010.

9)Neuschwander-Tetri BA, et al. Lancet 385(9972): 956-965, 2015.

10)Armstrong MJ, et al. Lancet 387(10019): 679-690, 2016.

11)Newsome PN, et al. N Engl J Med 384(12): 1113-1124, 2021.