Diabetes Front

DITN No.496 掲載

新専門医制度

新たに誕生する内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医の概要と

糖尿病内科領域専門医(現糖尿病専門医)のこれから

ゲスト

金藤 秀明先生

川崎医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科学

ホスト

宮塚 健先生

北里大学医学部 内分泌代謝内科学

わが国の専門医、認定医は現段階で100種類以上に上る。これまでは各学会が独自に認定してきたこともあり、専門性の質の担保が不十分との指摘があった。2014年に日本専門医機構(以下、専門医機構)が設立され、今後は専門医機構が制度の標準化と研修プログラムの審査認定も担うことになる。

2022年4月、内分泌代謝・糖尿病内科領域が承認され、これから新たに専門医・指導医を目指す医師の間で混乱が生じている。本日は宮塚健編集委員が日本糖尿病学会の専門医制度担当理事である金藤秀明先生と対談し、新専門医制度の概要と今後の展望について伺った。

内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医―背景と目的―

宮塚●今回は新たな専門医制度について、金藤先生にご解説いただきたいと思います。私が所属する北里大学病院内分泌代謝内科では、一つの診療科で糖尿病と内分泌疾患の両方を診ており、金藤先生のおられる川崎医科大学附属病院糖尿病・代謝・内分泌内科でも似たような体制で診療されていることと思います。これまでは、当診療科に所属する多くの医師は、日本糖尿病学会(以下、糖尿病学会)が認定する糖尿病専門医と日本内分泌学会(以下、内分泌学会)が認定する内分泌代謝科専門医のどちらか一方、もしくは両方の専門医を取得して診療に当たっています。

 そうした状況の中で、専門医機構が認定する内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医が誕生することになりました。その背景、目的についてお聞かせください。

金藤●今まで専門医は各学会で認定、研修、更新などを行ってきました。専門医機構はその標準化と質の担保を重要な使命の一つとしています。また、糖尿病専門医ではないけれど糖尿病患者を診ている内科の医師たちから、専門医機構のような第三機関による、今までの糖尿病専門医よりも少しハードルが低い新たな専門医制度を望む声が多くあったと聞いています。

基本領域研修と1.5階のサブスペシャルティ領域研修

宮塚●新専門医制度で糖尿病専門医(糖尿病内科領域専門医)になるための手続きはどのように変わるのでしょうか。

金藤●初めに今までと同様に、各科を幅広く回る初期臨床研修が2年間あります(図1)。その後、1階の基本領域研修として内科基本領域の3年間の研修を受け、内科専門医資格認定試験に合格すると内科専門医となります。その後にサブスペシャルティ領域の研修を開始するコースが検討されたこともあると聞いていますが、それでは糖尿病専門医を取得するまでにかなりの年数を要してしまうため、基本領域研修の2年目と3年目は1.5階のサブスペシャルティ領域研修と連動して行えることとなりました。

 つまり、基本領域研修の2年目から内分泌代謝・糖尿病内科領域の研修を2年間連動して行います。その後プラス1年、合計3年の内分泌代謝・糖尿病内科領域の研修の後に試験を受けて内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医となります。その内分泌代謝・糖尿病内科領域の研修の3年目から同時に3階の糖尿病内科領域の研修を2年間受けて試験を経て、糖尿病内科領域専門医となります。このやり方ですと、医学部を卒業してここまで7年です。

図1 内分泌代謝・糖尿病内科領域研修の位置付け(予定)

糖尿病専門医のこれから―いずれ専門医機構認定に―

宮塚●糖尿病専門医は、今後も残ると考えてよいでしょうか。

金藤●はい、先ほどお話ししました3階部分の糖尿病内科領域専門医が、今までの糖尿病専門医と同じと考えていただいてよいと思います。変更点は、今までは糖尿病学会認定だったのが、専門医機構による認定に変わるところです。内分泌専門医の方も同様に、内分泌学会認定から専門医機構認定に変わります。

宮塚●私も金藤先生も糖尿病専門医の更新を5年ごとに行っています。今まで糖尿病学会に申請して更新手続きを行ってきましたが、いずれは専門医機構に申請する形に変わるのでしょうか。

金藤●その通りです。多分それぞれの更新の際に、糖尿病学会認定の糖尿病専門医から専門医機構認定の糖尿病内科領域専門医に変わるようになると思います。具体的なことはまだ決まっていませんが、おそらくスムーズにいくのではないかと思います。

宮塚●分かりました。手続きが複雑だったり、糖尿病専門医が別物になったりするわけではないということですね。

内分泌代謝・糖尿病内科領域の暫定指導医とは

宮塚●専門医機構の下で、指導医はどう変わりますか。新たな制度では、“暫定の”専門研修指導医が設定されています。暫定指導医が生まれた背景を教えてください。

金藤●内分泌代謝・糖尿病内科領域の暫定指導医というのができました(図21)。糖尿病学会と内分泌学会の両方の専門医を持ち、どちらかの指導医を持つ場合は領域指導医に認定されます。糖尿病学会の専門医は持っているけれども、内分泌の専門医を持っていない先生も多くいると思います。そうした先生方に指導医になっていただかないと、指導医不足という問題が生じます。

 そこで少なくとも糖尿病学会あるいは内分泌学会のどちらか一つの専門医を持っている場合は、条件を満たせば領域暫定指導医として、今から5年間は認定されることとなっています。5年後にどうなるかはまだ決まっていませんが、何らかの形で継続にならないと不都合が生じてくることが予想されます。

図2 内分泌代謝・糖尿病内科領域指導医の認定

内分泌代謝・糖尿病内科領域研修で必要な症例経験について

宮塚●糖尿病専門医となって、将来的には糖尿病を中心に診ていきたいという先生方も、これからは1.5階部分の内分泌代謝・糖尿病内科領域研修で内分泌疾患を診ることになりますね。

金藤●おっしゃる通りです。必要な事項をにお示しします。糖尿病と内分泌疾患、さらには代謝疾患の症例が必要となっています。糖尿病内科と内分泌代謝科が一緒になっている施設では比較的スムーズに必要な症例の経験が積めると思いますが、別になっている施設では工夫が必要かもしれません。

 それは1階の内科基本領域における内科の専攻医の皆さんも同じで、なかなか症例がそろわないような場合もあるかと思います。施設に足りない科の症例ができるだけスムーズにそろうように、うまく調整する必要がありますね。

表 内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医としての必要事項

1.5階と3階の専門医―それぞれの役割とは―

宮塚●現段階では糖尿病学会による糖尿病専門医、内分泌学会による内分泌代謝科専門医、新たに加わった専門医機構の内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医(1.5階部分)と、三つの試験が実施されています。

金藤●さらに、もうすぐ専門医機構による3階の糖尿病内科領域専門医の試験が実施されます。

宮塚●1.5階の内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医と3階の糖尿病内科領域専門医では、試験の難易度なども変わってきますか。

金藤●1.5階の方は基礎的な内容を中心とし、3階の方は専門性の高い内容になると思います。

宮塚●試験を受ける若手の先生方にとっては、1.5階の基礎的な試験から受けることができるので取り組みやすいでしょうし、専門性の高い3階を取る意味も出てきますね。

金藤●その通りです。1.5階はいろいろな内科で設定されていますが、3階は現在、糖尿病内科、消化器内視鏡、肝臓内科の3科だけとなっています。3階の糖尿病内科領域専門医は1.5階よりも専門性が高く、高いレベルの力を求められますので、とてもやりがいがあると思います。

宮塚●1.5階の内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医、3階の糖尿病内科領域専門医が設けられることで、糖尿病医療を山に例えると、裾野が広がり標高も高くなるイメージですね。

金藤●その通りです。

宮塚●先生は内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医を目指す医師に向けたガイドブックの制作にも携わっていらっしゃいますが、これまでのガイドブックとの違いはどのような点ですか。

金藤●今、糖尿病学会から「糖尿病専門医研修ガイドブック 改訂第8版」が、内分泌学会から「内分泌代謝科専門医研修ガイドブック」が発行されており、両方とも少し厚めで、糖尿病学会の方は約500ページ、内分泌学会の方は約800ページあります。今後はこの2冊を1冊にして1.5階の内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医に合った内容のものにする必要があります。両学会の先生方とご相談させていただきながら、ある程度コンパクトにする方向で進めています。今のところ300ページほどにまとめる予定です。受験する先生方ができるだけ勉強しやすいガイドブックを目指しています。

 今まで日本内科学会が運営してきた認定内科医と総合内科専門医は、いずれ専門医機構認定の基本領域研修(1階)の内科専門医に統一されますが、今のところは現状のままです。

宮塚●従来の研修を受けた医師が内分泌代謝科専門医を目指す場合、現時点ではこれまで通りの試験を受験するのですよね。

金藤●その通りです。当面は残すと聞いていますので、今、内分泌代謝科専門医を取るという場合、内分泌学会認定の専門医試験を受けることになります。

新しい糖尿病内科領域専門医―若い力を糖尿病医療に―

金藤●ご存じのように、糖尿病患者数は多く、厚生労働省の調査2)では、予備群(糖尿病の可能性を否定できない人)を合わせると約2000万人です。糖尿病医療の充実はわが国にとって非常に重要です。

宮塚●現在の糖尿病学会認定の専門医約6000人が、約2000万人の糖尿病患者全て(可能性を否定できない人を含む)を診ることはできません。新制度の1.5階部分の内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医は、今までの糖尿病専門医よりも基礎的な内容となって、さらに必要な糖尿病の症例数もやや少なくなるので、取得しやすくなりますね。 今後、新専門医制度の下で、多くの内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医が誕生することはこの課題を克服することにもつながります。

金藤●私も同じように思います。より多くの先生に取得していただくという点から見ると、今までの糖尿病専門医では少しハードルが高いという問題がありました。より取得しやすい1.5階ができることで、より多くの先生に内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医として、自信を持って糖尿病患者を診ていただけると思います。

 患者、国民の皆さんも専門医の診療を受ける機会が増すことで、安心されるのではないかと思います。

宮塚●従来の糖尿病専門医が今まで通りの専門性の高い医療を提供しながら、内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医が多く誕生し、さらに今後、3階部分の糖尿病内科領域専門医を目指していただけるようになると、糖尿病医療はより一層充実したものになるのではないでしょうか。

金藤●新専門医制度がスタートしたのは2018年で、初めての内分泌代謝・糖尿病領域専門医の試験が実施されるのが、2022年度(2023年2月)です。

 この制度の開始によって糖尿病医療が一層充実することを私も期待しています。

宮塚●新専門医制度の3階部分の糖尿病内科領域の研修を2022年度に修了する先生方もいらっしゃいますから、新しい糖尿病内科領域専門医の誕生ももうすぐですね。

金藤●われわれ指導医もシステムを理解し、研修中の先生方のそれぞれのニーズに応えつつサポートしていきたいと考えています。できれば糖尿病医療の魅力を伝えることで、多くの先生方に日本の糖尿病医療にその若い力を注いでもらいたいと思います。

 先ほどもお話ししましたが、糖尿病学会の糖尿病専門医の認定もまだ行われており、他の学会もおおむね同様だと思います。今はまさに過渡期です。今後、いろいろな変更などもあって、先生方は戸惑われることがあるかもしれません。

 しかし、新専門医制度によって、医療の質の向上や患者の安心感の増大が期待できますので、多くの先生方と共に、より良い糖尿病医療を目指していきたいと思います。

宮塚●先生のおっしゃる通り、過渡期であるだけに、不確かな情報も多く、不安に思う若手医師も多いようです。糖尿病専門医・指導医として、新専門医に関する正しい情報を得ながら、若手医師に糖尿病診療の魅力を伝えていきたいと思います。本日はお忙しい中、大変分かりやすくご解説くださり、誠にありがとうございました。

参考文献

1)日本内分泌学会ホームページ:http://www.j-endo.jp/modules/special/index.php? content_id=30

2)厚生労働省, 平成28年国民健康・栄養調査結果の概要:https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkou zoushinka/kekkagaiyou_7.pdf