Diabetes Front

DITN No.493 掲載

保険収載となった膵島移植の可能性

低侵襲で近年、治療成績向上

ゲスト

剣持  敬先生

日本膵・膵島移植研究会 会長、藤田医科大学医学部移植・再生医学講座

ホスト

川浪 大治先生

福岡大学医学部内分泌・糖尿病内科学

川浪●2020年4月に膵島移植が保険収載されましたが、まだ十分に知られていない治療法だと思います。私は2021年5月に福岡大学での膵島移植に糖尿病専門医として参加して、その治療の有効性を実感しました。今回は日本における膵臓ならびに膵島移植の第一人者であります日本膵・膵島移植研究会会長の剣持 敬先生をお招きして、膵島移植とはどういう治療法なのか、そのメリットやデメリット、適用となる患者、さらに今後の展望などをお伺いしたいと思います。

膵島移植は膵島を点滴で移植

川浪●最初に、膵島移植がどのような治療法なのかを教えてください。

剣持●膵島移植は膵臓の中から膵島だけを取り出して、それを門脈の中に、体外から穿刺して移植します(図1)。局所麻酔で行えて低侵襲、繰り返し移植が可能、凍結保存ができることが大きな特徴です。簡単にプロセスについてお話ししますと、脳死、心停止ドナーから膵臓を摘出して各施設のCPC(Cell Processing Center)で膵島分離をします。分離した膵島を膵島浮遊液にして、一般的には手術室ではなく血管造影室などで、局所麻酔で肝臓内の血管である門脈にカニュレーションします。念のために造影をすることで、肝臓全体にいくことを確かめてから点滴で移植します。15分から20分で終わります。移植といっても点滴なのです。

図1 膵島移植(Pancreatic)Islet Transplantation

1996年「膵島移植班」始動

川浪●日本で膵島移植はいつごろから取り組まれてきたのでしょうか。

剣持●私は1992年から1995年までUCLAに留学して、その時に初めて膵島移植を経験しました。千葉大学に戻ってから日本でも膵島移植を進めたいと活動をしてきました。

 膵島移植は臓器移植である膵臓移植と同じ1型糖尿病の治療ですが、膵島は組織ですから、日本組織移植学会に入って、組織移植ネットワーク内で実施する体制をつくりました。ただし、皮膚や心臓弁、血管など、他の組織と違い、ドナーの心停止後30分以内の膵臓摘出が必要で、他の組織と同じような仕組みではできなくて苦労しました。1996年に日本膵・膵島移植研究会の中に「膵島移植班」をつくり、やっと2003年にヒト膵島分離・凍結保存ができ、2004年にヒト膵島移植を実施しました。当時は、「膵島移植の指針」「膵島移植実施マニュアル」、さらに患者向けの「膵島移植を知っていますか?」などの冊子を作成し、医療者と患者両方への情報提供に努めました。

川浪●まず始まるまで大変なご苦労だったと思います。先生の思いの強さを感じます。その後の経過も教えてください。

剣持●C-ペプチドのレベルが0.3ng/mL超を膵島の生着として、2007年までの成績は、複数回移植例の5年の生着率が30%程度と長期成績はあまり良くなかったです。膵腎同時移植では5年の膵臓生着率が80%以上ありますから、成績の差があることが分かります。

 実は2007年に膵島移植医療においては大きな問題が判明しました。そのころ使っていたコラゲナーゼが、生成過程でウシの脳の抽出物が使われていたことがアメリカで分かり、日本でも膵島移植はいったん中断になりました。その後、ブタを使ったコラゲナーゼを京都大学で検証して問題ないことが分かり再開しました。 そのころちょうど海外では、エドモントンプロトコルから、新しくミネソタのドクター、ヘーリングのチームが見いだしたCITプロトコルが出ました。

CITプロトコルにより治療成績向上

川浪●CITプロトコルはどういうものなのでしょうか。

剣持●inductionをATG+etanerceptで、maintenanceをFK+MMF or sirolimusで行うものです。成績をみると、CITプロトコルでは5年の生着率が60%近くとなっており、エドモントンプロトコルでは20%程度ですので、大きく前進しました(図2)。われわれも2012年からCITプロトコルで多施設共同研究(先進医療)として膵島移植を実施してきました。その成績は図3になります。5例中2例がインスリン離脱をしていますし、さらに2例も現在生着中と成績が向上しました。この成績をベースに、膵島移植は保険収載されました。

川浪●膵島移植は複数回受けることが可能であるとのことでしたが、1人の患者が受けられる上限は決まっていますか。

剣持●3回までを優先的にするルールですので、上限は3回といえます。もちろん、1回目、2回目でインスリン離脱を達成された場合はそれ以上の移植は行いません。

川浪●「膵島移植マニュアル」は2021年3月に第4版が発行となりましたが、4版の改訂のポイントを教えてください。

剣持●前の第3版は2006年に作成しました。第4版での主な変更点は、免疫抑制法と脳死ドナーが使えるようになったことですが、保険収載され膵島移植のいろいろな条件が変わりましたのでその点も反映されています。

川浪●2020年の保険収載までにはいくつかの壁があったと伺っています。どのようにクリアしていったのでしょうか。

剣持●実際のところ、1997年からずっと膵島移植の費用は研究費でつないできました。2016年から2018年まではAMEDの研究費で、福岡大学と京都大学が中心になって臨床をやっていただいていました。2018年でAMEDが終了するために、その継続か、あるいは2019年からの保険適用を目指していて、先ほどお示しした膵島移植の成績が良いことが大きな力となりました。また日本移植学会、日本糖尿病学会、さらに日本組織移植学会にさまざまなサポートをしていただきました。保険適用になってからの第一号は先生の福岡大学で2021年5月に行われました。

川浪●はい、移植チームの一員として私も参加しまして大変感激しました。

剣持●保険適用になったのですが、施設要件が厳しくて、現在、先生のところの福岡大学、京都大学、それから私どもの藤田医科大学の3施設が日本移植学会の認定となっています。他の9施設が申請中もしくは申請準備中です。

図2 CITプロトコルとエドモントンプロトコル
図3 中間解析結果(CIT-J003)

膵島移植と膵臓移植の違い

川浪●膵島移植と膵臓移植との違いについて教えていただければと思います。

剣持●簡単に違いを表1に示しました。まず大きな違いは、膵臓移植は全身麻酔で開腹手術となり膵臓単独移植で手術時間は3時間から5時間くらいなのに対して、膵島移植は局所麻酔で膵島を点滴で移植し、手術時間は15分から20分くらいです。圧倒的に膵島移植の方が低侵襲といえます。低侵襲ですので合併症や死亡のリスクもほとんどなく、患者の痛みも最初の針を刺す程度でほとんど問題にはなりません。

川浪●膵島移植に実際に立ち会いましたが、局所麻酔なので患者と話をしながら内科医が血糖値を調整しました。低侵襲であることが印象的でした。

剣持●しかし、それなら全部膵島移植でいいでしょうとはいかなくて、膵腎同時移植は90~95%と高い割合でインスリン離脱ができます。膵島移植も成績は良くなりましたが、膵腎同時移植と比較するとインスリン離脱率は低いです。

 また、臨床例が膵臓移植は世界で5万例以上、日本でも400例以上なのですが、膵島移植は世界で1500例くらい、日本では30例くらいで臨床数がまだ少ないです。

 さらに医療費の問題があります。膵腎同時移植では、自立支援医療(更生医療)の対象となり、条件によって変わるのですが、個人の負担が大体月に1万円前後の人が多いのです。ところが膵臓単独移植や膵島移植では、健康保険だけが適用となって、高額医療費制度を使って、これも個人の条件によって変わりますが月に8万円くらいの負担の方が多いです。そうすると、年を追うごとに服薬や通院をやめてしまう方が出てくるのが現状です。それが、日本の膵臓単独移植の長期の成績が5年生着率30%くらいと、あまり良くない要因ではと考えています。膵臓単独移植、膵島移植の患者の費用負担の問題には、厚生労働省の担当部署に実情を伝えて、どうにかならないかと相談しているところです。

表1 膵島移植と膵臓移植の違い(それぞれのメリット、デメリット)

膵島移植を勧めたい患者

川浪●膵島移植にわれわれ糖尿病専門医がどのように連携していくべきかについて、ご意見をお聞かせください。

剣持●先生方には患者の適応判定や術後の内分泌機能検査などを担当していただきますが、一番大事なのは常に日常診療の中で連携をしていくことですね。

川浪●福岡大学では再生移植医学講座(小玉正太先生)と膵島移植会議を月に1回やっていますので、いざ移植を行うというときも非常にスムーズでした。では、実際どのような患者が移植の適応になるのでしょうか。

剣持●1型糖尿病患者で内因性のインスリンが枯渇していて、内科の先生ががんばっても血糖が不安定で低血糖が頻発するとか、合併症が進行しているような人が移植医療の適応になると思います。

 では、膵臓移植と膵島移植のどちらを選択するかは、私見も入っていますが、保存期腎不全・人工透析の場合は膵腎同時移植となります(図4)。それから腎機能良好あるいは腎移植後の場合は、膵島移植が第一選択になると思います。膵臓単独移植も選択可能ですが、日本では治療成績が良くないです。むしろ膵島移植の方が良いとなると、低侵襲の膵島移植が第一選択になると思います。 それから、今、腎移植後膵臓移植(PAK)をやっていますが、これは膵臓単独移植よりは成績が良くて、5年生着率が50~60%です。しかし膵島移植の成績が今、同じくらいになってきているので、腎移植後も膵臓移植より膵島移植がいいのではないかと思います。あとは症例ごとの状態や患者の希望など、さまざまな点を加味して考えていくことになります。

図4 膵臓移植を勧めたい患者

膵島移植は重要な治療オプション

川浪●われわれ糖尿病専門医がインスリンポンプなどのさまざまな機器を駆使しても、安定した血糖コントロールが得られない、重症低血糖が起きてしまう、合併症も進行してしまうという1型糖尿病患者はいます。そういうケースでは、膵島移植はオプションとしてとても重要だと思います。ただ一方で、糖尿病医療者は膵島移植についての理解が十分ではない面もあると思います。

剣持●膵島移植の患者は全て、糖尿病の先生方の患者ですから、やはり先生方のご理解をいただかなくてはなりません。まだまだ、ハードルの高い治療というイメージがあると思いますので、われわれの努力が必要です。学会同士の連携も重要ですね。日本糖尿病学会と一緒に進めていることの一つに、膵島移植に使用できなかった膵島の研究転用を可能にすることがあります。日本人糖尿病医療の進歩には、日本人の膵島を使った研究が必要だと思っています。

膵島移植の現状

川浪●膵島移植の現状を教えてください。コロナ禍の影響はありますか。

剣持図5は膵島移植班事務局に寄せられたドナー情報です。脳死ドナーが使えるようになったのは2013年ですので、それまでは全部心停止ドナーでした。

 多い年では心停止ドナー8件、脳死ドナーが20件とドナー情報は30件近くありました。全部が膵島移植に至るのではなく、糖尿病などの問題があったり、膵臓移植に回ったりして、膵島移植の提供に至ったドナーは多い年で6件でした。

 2020年はドナーの情報が近年では最も少ない3件で、提供に至ったドナーはありませんでした。2020年はコロナ禍の問題もありましたし、AMEDが終了したことと、膵島移植が保険医療への切り替えの時期だったことが要因と考えています。今年、2021年は今までに、心停止ドナー4件、脳死ドナーが7件とすでにドナー情報は11件で、提供に至ったのが福岡大学の1例です。今年はまだ増加するかもしれませんし、コロナ禍が収束すればもっと増えると考えています。

川浪●コロナ禍の中ですと、県をまたぐ移動がしづらいとか、患者も医療者も苦労がありますね。

剣持●ドナーが出たときに、移植チームが全国に行って摘出をして持ち帰るのは困難な状況です。例えば、当施設でドナーが出たら、われわれが摘出してコーディネーターが移植施設へ運ぶ仕組みの構築を進めています。これはコロナ禍が収束しても、移植医の負担を減らす意味でメリットが大きいと考えています。全国のコーディネーター同士の連携も進めて、例えばうちの施設でドナーが出て、福岡大学で移植となった場合、福岡から愛知まで来るのは大変なので、うちのコーディネーターがコーディネーションをして承諾書などもいただく形にした方がよいと思うのです。逆に福岡大学でドナーが出たら、そちらのコーディネーターに対応してもらう形ですね。できるだけ効率的なやり方を考えていきたいです。

川浪●そうすると、コロナ禍のピンチの経験が、今後に生かされてきますね。

図5 膵臓移植班事務局に寄せられたドナー情報の推移

膵島移植のご相談はお気軽に

川浪●糖尿病医療者に伝えたいことはどのようなことでしょうか。

剣持●先ほども申し上げましたが、膵島移植のメリットをぜひご理解いただいて、ハードルの高い治療と考えないでもらいたいです。ご相談はお気軽にいただけたらと思います。

川浪●糖尿病医療はチーム医療なので、医師だけでなく、メディカルスタッフにも膵島移植を知ってもらいたいですね。

剣持●メディカルスタッフを対象とした勉強会もやっています。メディカルスタッフの皆さんにも、膵島移植の意義を共有してもらえたらと思います。

川浪●最後に、今後の膵島移植の展望についてお伺いしたいと思います。

剣持●糖尿病患者に対する移植医療体制がまだ固まっていない部分があるので、よりきちんと構築していきたいです(表2)。膵島移植、膵臓移植における医療費の患者負担が大きい問題も解消したいです。膵島の移植に使えなかった膵島を糖尿病研究に使用することも実現したいと考えています。さらに、異種移植やいずれはiPSで作った膵島内βcellの移植の可能性もあると思っています。実は異種移植は、海外でブタを使った研究がかなり進んでいます。

川浪●今後の展開にも大きな期待が持てますね。われわれは膵島移植をきちんと理解して、情報提供を行い、この治療のメリットを最大限、患者に届けたいと思います。本日はありがとうございました。

表2